車やバイクとは一味違う!?船舶ディーゼルエンジンの冷却水。

冷却水と言っても、実は数種類あることをご存知ですか?

知らないという方もこの記事を読めば概要を把握することができます。

この記事では大型船舶ディーゼルエンジンの冷却水についてご紹介いたします。

小型船舶の冷却水はこちら>>

目次

冷却水の種類と経路

冷却水はディーゼルエンジンのシリンダライナや各クーラーを冷やす水です。

冷却水にはいくつか種類があり、まず清水(水道水)海水に分かれます。

さらに清水が

①ディーゼルエンジンのシリンダライナ周辺を流れて燃料燃焼によって発生した熱を吸収、冷却する高温冷却清水(60℃以上)。

②潤滑油クーラー、インタークーラーなど、すでに各部の熱を吸収して来た潤滑油や、給気に使用する過給機通過後の空気を冷却したり圧縮機等を冷却するのが低温冷却清水(31〜42℃)。

に分かれます。

そしてこれらの清水を冷却するのが海水です。海水温度は季節によって変化し東京湾で10〜30℃です。

海水をシリンダライナ周辺冷却(ジャケット冷却水)に使用する事はありません。なぜなら含まれる塩分が冷却の邪魔をしたり海水腐食によりエンジン本体内部の主要部を腐食させるなどリスクが大きいからです。

シリンダライナ周辺冷却は清水を使用する事が一般的です。

エンジンブロックとライナの間にある冷却水通路(ジャケット冷却清水通路)

熱交換器(クーラー)とは

クーラーとは”熱交換器”のことで筒の中に銅管を無数に設置して筒と銅管に別々の流体を流すシェルアンドチューブ式やプレートを隣り合わせに数十枚重ねて交互に別々の流体を流すプレート式があります。

プレート式クーラー

温度調節の方法

冷やす順番は海水→低温冷却清水→高温冷却清水です。海水と清水、清水と冷却対象は前述のクーラーを使用するため混ざり合うことはありません。一方、低温冷却清水と高温冷却清水の清水同士は同じ系統になっていて、冷やした水と温まった水を混ぜ合わせて設定された温度に調整する家庭のシャワーと同じ原理です。三方弁というものを使用しています。

ワックス式温調弁(三方弁)

温度調整には三方弁をどのように作動させるのか違いがあり、手動式と自動式があります。陸上のシャワーは一定温度の温水と冷水を元に設定温度を目指すので手動式で十分ですが、船ではエンジン負荷によって変化する温水と海水温度によって変化する冷水を使用して設定温度を目指すので常に一定温度を保つ事が難しく、随時対応可能な自動式が多く採用されています。

セントラルクーリングシステムとは

1箇所で集中的に清水を海水で冷却し、その他全ての冷却を清水で賄う方式をセントラルクーリングシステムと言います。

セントラルクーリングシステムではない船のエンジンは低温系統(各クーラー)に海水を使用しています。設備投資が少ない代わりに海水がクーラーや配管を早く腐食させたり、海洋生物による詰まりを発生させるなどのデメリットもあります。船の大きさにより異なる場合もあります。

低温系統とはあくまでもクーラー(熱交換器)まででありシリンダライナ冷却(ジャケット冷却水)に海水は使用しません。

では、セントラルクーリングシステムも海水も無い車のエンジンは何で冷却水を冷やしているのでしょう?

そうです、正解は空気です。空気で冷却水を冷やしています。ファンでフィン付きのラジエーターを流れる冷却水を冷やし、エンジンに循環しています。ファンベルトがいかに大切かが分かりますね。

高温冷却清水と聞くとなんだか難しく聞こえるかもしれませんが、車で言ういわゆるクーラントを混ぜて入れるあの水の事です。

高温冷却清水の制御

高温冷却清水の温度調整はエンジン出口温度で行います。エンジンに入る温度では無く出口で制御する事により、エンジン内で異常加熱や冷却不良があったときにすぐにわかります。

高温冷却清水、エンジン出口温度は80℃から90℃が適当です。95℃になると警報が設定されていて自動減速や自動停止するエンジンが殆どです。

圧縮空気駆動ダイヤフラム弁式温調弁

添加剤はクーラント?

セントラルクーリングシステムで使用している冷却清水には添加剤を入れています。私が乗船している船ではポリクリンと言う添加剤を使用していて、8,300ppm、pH8前後に調整管理しています。

海水冷却式や小型のエンジンで、高温冷却清水がエンジン内のみを循環しているものは、添加剤にクーラントを使用します。濃度が濃くなれば凍結し辛くなりますので運航海域によって調整しましょう。

極寒地に行かないのであればせいぜい30%以下といったところでしょうか。東京湾では10%で十分です。入れすぎると冷却効率が下がりますので、程よく添加しましょう。

ただし、不凍の他に防錆効果もありますので、水道水のみではいけませんので注意が必要です。

また、冷却水は腐りますので定期的な交換が必要です。

漏れるとどうなる?

冷却水が漏れればオーバーヒートします。

以前冷却水もれが起きたときの例をこちらのnoteでご紹介いたします。

まとめ

今回は大型船舶ディーゼルエンジンの冷却水についてご紹介しました。

数種類あるややこしい冷却水ですが、これで問題なく理解する事ができますね。

ぜひ、現場で冷却水の話題に参加してみてください。

最後までご覧いただきありがとうございます。

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Masa_MarineEngr
子どもの頃から乗り物が好きな船舶機関士。旅行で乗ったフェリーがキッカケで船乗りに。何社か経験して現在は陸に近い船の船員。ちょっと、試しに、ブログ始めてみました^^